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仙台高等裁判所 昭和61年(ネ)544号 判決 1988年3月28日

控訴人 松橋幸四郎

被控訴人 日本原子力研究所

参加人 青森県知事

右両名代理人 島田清次郎 馬場宣昭 宮崎芳久 浅野正樹 三輪佳久 小野健司 ほか九名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  (主位的請求)

被控訴人は、原判決添付図面記載ウエオカキクケコの各点を順次結んだ線と高潮時海岸線で囲まれた区域で公有水面埋立をしてはならない。

3  (予備的請求)

被控訴人は、原判決添付図面記載タクケセタの各点を順次結んだ線内の区域で公有水面埋立をしてはならない。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人及び参加人

主文同旨

第二当事者の主張及び証拠

左記のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示及び当審記録中証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決三枚目裏五行目から六行目にかけての「トスシサケセソの各点を順次結ぶ線と高潮時海岸線とで囲まれた区域」を「スシサセスの各点を順次結んだ線で囲まれた区域」と改める。

2  同五枚目表三行目の次に行を改めて「仮にそうでないとしても、控訴人は本件各係争区域について漁業行使権ないしは漁業を営む権利を有しており、これに基づいて妨害排除請求権を行使することができる。」を付加する。

3  同五枚目表八行目の「前記各漁業権」の次に「もしくは漁業行使権ないし漁業を営む権利」を付加する。

4  同六枚目裏一〇行目の「組合員」の次に「ないし関係地区漁民」を、同末行の「のであるから、」の次に「組合員ないし関係地区漁民」をそれぞれ付加する。

5  同七枚目裏六行目の「二一名」を「三三名」と、同八行目の「二二四票」を「二二二票」と、同一〇行目の「二一票」を「三三票」と、同一〇行目の「二一二票」を「二〇〇票」と、同末行の「二一を差引いた一三八名」を「三三を差引いた一二六名」とそれぞれ改める。

6  同八枚目表四行目の次に行を改めて次のとおり付加する。

「また右同日の臨時総会においてなされた前記漁業権の一部変更及び放棄の決議にも右と同じ瑕疵があつて無効である。

更に右共同漁業権の一部変更決議は次の理由からもその効力を生じていない。すなわち漁業権は私権ではあるものの、同時に漁業権の設定は漁業計画を経て免許申請をなした後、都道府県知事の免許行為(設権行為)を必要とし、個々の漁業権の具体的な内容は知事の免許によつて決定されている。そうすると、漁業権の権利者が漁業権の一部放棄を決定し、これを意思表示したところで、漁業権の変更免許を受けなければ私的には漁業権の内容に変更を加えることはできない、そして、現行漁業法上、都道府県知事は変更免許の際にも必ず漁場計画を樹立しなければならないところ、漁場計画はその性格からして漁業生産力を減少させるような場合には樹立できないものである。

本件の場合、漁業権の一部放棄の決議を受けてなされた青森県知事の変更免許については、その前提として漁場計画が樹立されておらず、しかもそもそも漁場計画を樹立できない場合であるから、右変更免許には重大かつ明白な違法があり無効である。そうすると、右各共同漁業権の権利内容は何ら変更されておらず、控訴人は本件係争区域について依然として漁業を営む権利を有している。

更に公有水面埋立免許については、前記のとおり昭和五八年八月七日臨時総会における埋立免許に対する同意の決議が無効であり、関根浜漁協の西口組合長には埋立同意の権限がなく、かつ青森県知事は実質上の当事者的な立場で右問題にかかわつていて、右同意の無効であることを十分に知りながら本件公有水面埋立免許をなしたものであるから同免許は無効である。」

7  同八枚目表六行目の「臨時総会において、」の次に「前記各漁業権の変更及び放棄、」を付加する。

8  同八枚目表八行目及び九行目の「二一」をそれぞれ「三三」と改める。

9  同八枚目表末行の「従つて」の次に「前記各漁業権の一部変更及び放棄並びに」を付加する。

理由

一  関根浜漁協が係争区域一を含むところの原判決添付図面テイアツの各点を順次結んだ線と高潮時海岸線とで囲まれた区域に東共第三一号及び第三二号共同漁業権(漁業権一斉切替後は東共第三三号及び第三四号共同漁業権)を、また係争区域二を含むところの同図面スシサセスの各点を順次結んだ線によつて囲まれた区域に東こわ区第一六号区画漁業権(漁業権一斉切替後は東こわ区第一五号区画漁業権)をそれぞれ免許取得したことは当事者間に争いがなく、控訴人が同漁協の正組合員であることは当審における<証拠略>によりこれを認めることができる。

二  控訴人は、関根浜漁協に免許された右各漁業権が控訴人を含む同漁協組合員ないし関係地区漁民に入会権と同様に総有的に帰属していると主張し、この漁業権に基づき、あるいは控訴人が同漁協組合員として有する漁業行使権ないし漁業を営む権利に基づく妨害排除請求として、被控訴人が本件各係争区域において行う公有水面埋立の差止を求めている。

そこで判断するに、少なくとも現行法上、漁業権は都道府県知事の免許によつて設定されるものとされ(漁業法一〇条)、共同漁業権及び特定区画漁業権は、漁業協同組合又はこれを会員とする漁業協同組合連合会に帰属し、その構成員たる個々の組合員は、行使規則に従つて、漁業協同組合又は漁業協同組合連合会の有する共同漁業権若しくは区画漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有するものとされ(同法八条一項)、漁業権自体が一定の存続期間の経過によつて消滅するものとされる(同法二一条)ほか、その保有主体たる漁業協同組合が適格性を喪失したときや公益上の必要が生じた時などは取消されるものとされ(同法三八条、三九条)、また、漁業権の得喪又は変更は漁業協同組合の総会の特別決議によつてこれをなすものとされている(水産業協同組合法四八条一項九号、五〇条四号)ことに照らすと、現行法の下においては、漁業権は免許をうけた漁業協同組合又は漁業協同組合連合会に帰属するものというべく、漁業権が、関係地区漁民ないし組合員の総有に属するとの控訴人の主張は採用できない。右にみたところによれば、前記各漁業権は関根浜漁協に帰属し、控訴人は同漁協の組合員として、同漁協が右各漁業権を有することを前提として、行使規則に従つて、同漁業権の範囲内において、漁業を営む権利を有するにすぎないものである。

三  被控訴人は、関根浜漁協が本件各係争区域に対して有する共同漁業権及び区画漁業権は、同漁協の昭和五八年八月七日の臨時総会においてこれを放棄する旨の特別決議がなされたことにより消滅し、これに伴い、控訴人が本件各係争区域で漁業を営む権利も消滅した旨主張するので、以下この点について判断する。

<証拠略>によれば、関根浜漁協は、昭和五八年八月七日臨時総会を開催し、同漁協の有する東共第三一号及び東共第三二号共同漁業権(漁業権一斉切替え後は、東共第三三号及び第三四号共同漁業権)を一部変更して、本件係争区域一(係争区域二を含む)を右各共同漁業権に係る漁場の区域から除外し、かつ本件係争区域二についての東こわ区第一六号区画漁業権(漁業権一斉切替え後は、東こわ区第一五号区画漁業権)を放棄する旨の議案について、当時の正組合員二五四名のうち過半数が出席し、投票総数二三三票、賛成一五九票、反対七四票の特別決議をもつて可決し、右共同漁業権の一部放棄については、漁業法二二条一項の規定に基づき、同年九月二九日、青森県知事の変更免許を受け、同日共同漁業権については漁場区域変更の登録、区画漁業権については漁業権消滅の登録がそれぞれなされたことが認められる。

そうすると、右決議は、前記水産業協同組合法四八条一項九号、五〇条四号所定の漁業権の得喪、変更に必要な特別決議の要件を満たしており、これにより、関根浜漁協は本件各係争区域についての右各共同漁業権及び区画漁業権を放棄し、これに伴い控訴人の右各係争区域内での漁業を営む権利も消滅したものというべきである。

四  控訴人は、右各漁業権は、入会権と同様に関係地区漁民ないし組合員全員の総有に属するから、その放棄には関係地区漁民ないし組合員全員の同意を要する旨主張する。

しかし、漁業権の帰属に関する右のような主張が採用し難いことは前記第二項においてみたとおりであり、現行法上、右各漁業権は前記水産業協同組合法の規定に従い、漁業協同組合の正組合員の二分の一以上が出席した総会の三分の二以上の多数による特別決議により放棄することができ、このほかに格別の同意その他の要件を必要とするものとは解されないから、控訴人の右主張は採用できない(最高裁第三小法廷昭和六〇年一二月一七日判決・最高裁民事裁判集第一四六号三二三頁参照)。

五  次に控訴人は、右臨時総会決議においてした共同漁業権の一部放棄は、漁業権の変更にあたり、漁業権の変更免許を受けなければ法的に実現しないところ、本件の変更免許はその前提として必要な漁場計画の樹立がなされておらず、またそもそも漁場計画の樹立ができない場合であるから、変更免許は無効であり右共同漁業権の権利内容は何ら変更されていない旨主張する。

しかし、右臨時総会決議のごとく、従前の漁場区域を一部除外し、漁業権の一部を放棄することは、新たな権利の設定を受けるわけではないから、漁業法二二条一項の変更免許を受けなければ法的な効果を生じないものとは解されないし、なお漁業法二二条、一一条その他の規定に照らしてみても、右のような漁業権の一部放棄の決議を受けてなされる変更免許に際し、漁場計画の樹立が法律上要求されているものとも認められないから、これを欠くことにより右漁業権の放棄が効力を生じていないとの控訴人の主張は採用し難い。

六  更に控訴人は、右臨時総会の特別決議には、正組合員の資格を欠く者が三三名加わつていて、これを除外すると右決議は否決された蓋然性が高く、右決議は無効である旨主張する。

しかし、<証拠略>によれば、控訴人主張の三三名はいずれも、関根浜漁協の定款の定めるところに従い、正組合員としての資格について資格審査委員会の審査を経た後理事会において正組合員と決定された者であることが認められ、これらの者が控訴人主張のごとく実際には正組合員資格を欠くのに決議に参加したというような事由は、水産業協同組合法一二五条所定の決議の方法の瑕疵として同条による行政庁に対する決議の取消請求の事由とはなりえても、右決議が右取消の手続をまたずに当然に無効となるものとはとうてい解されない。そして、<証拠略>によれば、関根浜漁協の組合員松橋幸次郎が他組合員二九名の同意を得て青森県知事に対してした右議決取消請求は、昭和五八年九月二七日棄却され、更に同人は同年五一一月一五日に農林水産大臣に対し行政不服審査請求をなし、現に審査中であることが認められる。

そうすると右決議が無効であるとの控訴人の右主張は採用することができない。

七  以上によれば、関根浜漁協は、本件各係争区域に共同漁業権及び区画漁業権を有し、同組合の組合員である控訴人は、同漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有していたものであるが、同漁協において本件各係争区域に対する漁業権を放棄する旨の特別決議を行つたことによつて右各漁業権は消滅し、これに伴い控訴人の漁業を営む権利も消滅したものであるから、もはや控訴人は、本件各係争区域において被控訴人の行う公有水面埋立を差し止める何らの権利を有しないものであり、控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。

そうすると、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤和男 松本朝光 西村則夫)

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